平成5年(行ウ)第143号 輸入禁制品該当通知処分取消等請求事件

判決

原告 	土屋 勝
被告	国
	右代表者法務大臣前田 勲男
被告	東京税関長

主文

  1.  原告の請求をいずれも棄却する。
  2.  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求の趣旨

  1.  被告東京税関長が平成4年9月9日付けで原告に対してした原告の輸入申告に係わる写真集「ROBERT MAPPLETHORPE」1冊が輸入禁制品に該当する旨の通知を取り消す。
  2.  被告国は、原告に対し、115万円及びこれに対する平成4年9月9日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

  1.  本件は、被告東京税関長が、原告の輸入しようとする写真集が風俗を害すべき物品と認められるとして、関税定率法(以下「法」という。)21条1項3号所定の輸入禁制品に対当する旨の通知をしたため、これを不服とする原告が、法の右規定は憲法21条に反し無効であり、また、右写真集は風俗を害すべき物品に当たらないとして、右通知の違憲・違法を理由に、被告東京税関長に対し、右通知の取消しを求めるとともに、被告国に対し、国家賠償法に基づき慰謝料等の損害の賠償を求めた事案である。
  2.  争いのない事実等(証拠により認定した事実は、末尾に証拠を掲げた。)
    1.  原告は、米国において、写真集「ROBERT MAPPLETHORPE」1冊(以下「本件写真集」という。)を購入し、平成4年8月7日、他の書籍等とともに貨物として原告の経営する株式会社エルデの事務所宛てに発送し、自らが鑑賞する目的で本件写真集を輸入しようとした(甲第7号証、第32号証、原告本人尋問の結果)。
       本件写真集は、米国ニューヨーク州ニューヨーク市所在のホイットニー美術館が昭和63年7月から10月にかけて米国人の写真家ロバート・メイプルソープ(以下「メイプルソープ」という。)の回顧展を開催した際、その展示作品のカタログとして刊行されたものであり、その内容は、人物の顔、男性又は女性の裸体、花や彫刻等を撮影した写真、数枚の写真を切り貼りするいわゆるコラージュの手法を用いた作品などと、メイプルソープの作風等に関する英文の評論等によって構成されており(検乙第1号証の検証の結果、証人飯沢耕太郎の証言、原告本人尋問の結果)、そのうちの別表記載の箇所には、同表記載のとおりの内容の男性の性器や女性の陰毛等が写った写真が掲載されている。
    2.  貨物を輸入しようとする者は、当該貨物の品名並びに課税標準となるべき数量及び価格その他必要な事項を税関長に申告し(関税法67条)、当該貨物が申告されたとおりの品名、数量、課税標準等であるかどうか、他の法令の規定により輸入に関して許可、承認あるいは検査の完了等が必要とされる場合に、それらの必要事項の証明等がされているかどうか(同法70条)、原産地を偽った表示等がされていないかどうか(同法71条)、関税等を納付したかどうか(同法72条)、当該貨物が輸入禁制品に当たるかどうか(法21条1項)といった点について必要な検査(以下「税関検査」という。)を経て、税関長から輸入の許可を受けなければならないこととされている(関税法67条)。
       右検査に際し、税関長は、当該貨物が、法21条1項各号の輸入禁制品のうち3号所定の「公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品」(以下「3号物品」という。)に該当すると認めるのに相当の理由があると判断したときは、当該貨物を輸入しようとする者に対し、その旨を通知しなければならないとされており(法21条3項)、右の通知がされた場合には、以後、当該3号物品についての通関手続きは進行せず、輸入申告者は、これを適法に保税地域から引き取ることができなくなり(関税法73条1項、2項、109条1項)、その後は、輸入申告者の自主的判断に基づいて、所有権の放棄、積戻し、当該物品中の公安又は風俗を害すると指摘された箇所の削除等により処理されることが予定されている。
    3.  被告東京税関長は、平成4年9月9日付け、原告に対し、本件写真集は、風俗を害すべき物品と認められ、3号物品に該当する旨の通知(以下「本件通知処分」という。)をした。
       これに対し、原告は、本件写真集は個人が鑑賞する目的で輸入されるものであるから風俗を害するおそれはないなどとして、平成4年11月2日、被告東京税関長に異議申立をしたが、同年12月17日、右申立は棄却された。
       原告は、さらに平成5年1月14日、大蔵大臣に対して、審査請求をしたが、同年4月5日、右審査請求も棄却された。
    3 争点
    1.  本件通知処分の根拠法規である法21条1項3号、同条3項の規定は、次の(1)ないし(3)の点において、憲法21条に違反するかどうか。
      1.  法21条1項3号、同条3項は、憲法の禁止する「検閲」に当たり、憲法21条2項前段に違反する。
      2.  法21条1項3号にいう「風俗を害すべき」との文言は著しく不明確であり、このような基準による輸入規制は憲法21条1項に違反する。
      3.  単なる所持目的の場合を含め一律に輸入禁止を定める法21条1項3号は、表現の自由に対する過度に広範な規制であり、憲法21条1項に違反する。
    2.  本件写真集は、法21条1項3号所定の「風俗を害すべき」物品に該当するかどうか。
  3.  争点に対する当事者の主張(略)

第三 争点に対する判断

  1.  争点1について
    1.  税関検査の検閲該当性について
       3号物品に関する税関検査による輸入規制の手続きは、前記(事案の概要2の2)のとおりであり、これによれば、書籍、図画等の物品について3号物品に該当する旨の法21条3項による通知がされた場合には、当該物品を適法に輸入することができなくなるため、当該物品に含まれる思想内容等がわが国内において表現、伝達される機会が失われる結果となることは否めず、したがって、右の輸入規制は、その限度で、表現を事前に制限するという側面を有するものであるということができる。
       しかしながら、憲法21条2項前段が例外を許さず絶対的に禁止している「検閲」とは、表現を何らかの形で事前に抑制するもの全てを意味するわけではなく、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを意味すると解するのが相当である(最高裁判所昭和59年12月12日大法廷判決・民集38巻12号1308頁)。
       これを3号物品に関する税関検査についてみると、税関検査を実施する税関は、関税の確定・徴収を本来の職務とする機関であって、専ら輸入貨物の課税標準、税額等を確定・決定するという見地から、広く輸入される貨物の全般を対象として、その数量、価格、他の法令の規定により必要とされている許可、承認等の有無、原産地表示の正確性等の事項を検査するものであり、ある貨物が3号物品に該当するかどうかの審査も、右のような検査手続の過程で物品の外観・性状などから容易に判定しうる限りにおいて行われるにすぎず、思想内容等それ自体を網羅的一般的に審査し規制することを目的とするものではないということができる。したがって、3号物品に関する税関検査は、憲法21条2項前段において禁止されている「検閲」には当たらないというべきであり(前掲最高裁大法廷判決)、右税関検査の憲法21条2項前段違反をいう原告の主張は理由がない。
    2.  「風俗を害すべき」との文言の明確性について
       原告は、法21条1項3号の「風俗を害すべき」との文言は表現の自由を規制する法令の文言として不明確に過ぎ、右規定は憲法21条1項に違反する旨主張する。
       確かに、「風俗」なる文言は、一般には、性的風俗のみならず、社会的風俗、宗教的風俗等を含むものではあるが、しかし、およそ法的規制の対象として「風俗を害すべき書籍、図画」等というときは、性的風俗を害すべきもの、すなわち猥褻な書籍、図画等を意味するものと解することができるのであって、法21条1項3号にいう「風俗を害すべき」との文言についても、これを合理的に解釈すれば、右にいう「風俗」は専ら性的風俗を意味し、右規定により輸入禁止の対象とされるのは猥褻な書籍に限られるということができるから、右規定は何ら明確性に欠けるものではない。そして、猥褻性の概念は刑法175条の規定に解釈に関する判例の蓄積によってすでに明確にされているから、一般国民は、法21条1項3号における「風俗を害すべき」との文言によって、いかなる表現物がその規制の対象となるかを判断することができるのであって、右規定は、この点においても明確性の要請に欠けるところはなく、憲法21条1項に反するものではないというべきであり(前掲最高裁大法廷判決)、原告の前記主張は理由がない。
    3.  輸入規制の過剰性について
       わが国内における健全な性的風俗を維持、確保することは公共の福祉の内容をなすものであって、猥褻な物品がわが国内に流入し流布することを阻止する目的でその輸入を規制することは、その目的において公共の福祉に合致するものであるということができる。もっとも、わが国内においては、猥褻物品の頒布、販売及び販売目的の所持等が処罰の対象とされるにとどまり(刑法175条)、単なる所持は処罰の対象とされていないことからすると、猥褻物品の輸入行為であっても、単なる所持のみを目的とする輸入であり、国内において猥褻物品に関する可罰的行為が行われないことが税関検査の時点で客観的に判定しうるのであれば、そのような場合まで当該猥褻物品の輸入を規制する必要はないということもできるが、税関検査において輸入者の輸入目的を的確に識別することは極めて困難であるばかりか、当初は個人的鑑賞の目的のため所持することを目的として輸入された猥褻物品であっても、国内に流入した後に、可罰的行為に利用することは極めて容易であるから、当該猥褻物品が国内において頒布、販売されるおそれがないことを税関検査の段階で客観的に判定することは殆ど不可能であるといわなければならず、猥褻物品の国内への流入、伝播を阻止しわが国の健全な性的風俗を維持、確保するという目的を達成するためには、単なる所持目的かどうかといった輸入者の主観的意図のいかんを問わずに一律に猥褻物品の輸入を規制する必要があるというべきであって、右の輸入規制は、原告の主張するような過度に広範な規制には当たらず、憲法21条1項に反しないというべきである。
    4.  右のとおり、本件通知処分の根拠法規である法21条1項3号、同条3項の規定は憲法21条に反するものではない。
  2.  争点2について
    1.  法21条1項3号にいう「風俗を害すべき書籍、図画」等とは、前記のとおり、猥褻な書籍、図画等を指すと解すべきであるところ、猥褻とは、いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道徳的概念に反することを意味するものであり(最高裁判所昭和26年5月10日第一小法廷判決・刑集5巻3号9997頁)、原告が主張するようないわゆる春本、春画に限られるものではない。
       ところで、写真は視覚を通じて観る者に直接訴える表現物であるが、その猥褻性を判断するにあたっては、性に関する描写の程度とその手法が露骨で具体的なものかどうか、その描写が画面全体に占める比重、画面の構成、芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の程度などの諸々の点を総合して、当該写真を全体としてみたときに、主として観る者の好色的興味に訴えるものと客観的に認められるか否かを検討することが必要であり、右猥褻性の判断は、一般社会における良識である社会通念を基準として行われるべきである。
    2.  そこで、本件写真集の猥褻性の有無について検討する。
       検乙第1号証(本件写真集)の検証の結果によれば、本件写真集中、(1)その22頁の写真(別表番号2)は、向かって右側の寝そべった姿の男性の太腿の方向から陰茎及び陰嚢が近景になるように画面構成された写真であり、その男性性器の露骨な描写と、裸の男性同士がわずかに舌を出して接吻を行う姿とが相俟って、男性同士の性行為に関する好色的興味に訴えるところがあるというべきであり、(2)その49頁の写真(別表番号3)は、臀部と前部とが大きく開口した革のズボンを着けた上半身裸の男性(頭部は被写体となっていない。)が、その陰茎と陰嚢を布貼りの台の上に乗せている写真であって、右陰茎等を画面中央に目立つように画面構成し、男性性器を露骨に描写しているものであり、(3)その66頁の写真(別表番号4)のうち2枚の写真は、寝そべった男性が勃起した自らの陰茎を左手に握っている状態を、その陰茎と下腹部のみを被写体として撮影した写真であって、自慰行為を連想させるものというべきであり、(4)その75頁の写真(別表番号5)は、臀部等が大きく開口した革のズボンと革のベストを着けた男性が、鞭の柄を自らの肛門に挿入している姿を被写体とし、写真中央に鞭の柄が突き刺さった肛門部分が配置された写真であって、鞭のような他傷道具を使用する性戯や肛門性交を連想させるものというべきであり、(5)その95頁の写真(別表番号6)は、背広姿の男性(被写体となっているのは胸から腿まで)がズボンの前開き部分から出した陰茎を画面中央に配置した写真であり、その105頁の写真(別表番号7)は、全裸男性の腰から膝までを横から陰茎を中央に配置する形で撮影した写真であって、いずれも極めて露骨に陰茎を強調するものであり、(6)その107頁の写真(別表番号8)は、ガーターベルト、ストッキング、パンプス、コルセットのみを身につけ、大きく両足を広げて陰部を突き出している仰向けの女性(顔は被写体となっていない。)に対し、男性が女性の陰部に顔面を押しつけるようにして性戯を行っている姿を、男性の頭部が中央になるように撮影した写真であって、男女間の性行為に関する好色的興味に訴えるものであり、(7)その161頁の写真(別表番号13)は、両手両足を広げた全裸の男性が下を向いて自己の性器を見ている姿を撮影したもので、その性器が画面中央に目立つように画面構成され、男性性器を露骨に描写したものであることが認められる。
       右認定したとおり、右(1)ないし(7)の各写真(別表番号2ないし8、13の各写真。以下「本件写真」という。)は、性器そのものや性戯等を露骨かつ具体的に描写するものであり、その描写の画面全体に占める比重、画面の構成などからしても、殊更に性器そのものを強調し、性器あるいは性戯の描写に重きが置かれていることは明かであって、その芸術性との関連性を考慮してもなお、現時点におけるわが国の健全な社会通念に照らし、主として観る者の好色的興味に訴える効果、作用を有するものと認められ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道徳概念に反する猥褻なものといわなければならない。
    3.  原告は、現在、わが国においては、本件写真集と同一内容の輸入書籍を含め、性器や陰毛を表現した多数の写真、雑誌、ビデオ等が公然と展示・頒布・販売されるようになり、性表現に関する社会通念は大きく変化しつつあるから、このような現在の社会通念を基準にすれば、本件写真集は猥褻なものとはいえない旨主張する。
       そして甲第9号証の1、2、第12号証、第16号証、第18号証、第21号証、第21ないし第29号証、第35証、証人飯沢耕太郎の証言、原告本人尋問の結果によれば、(1)平成3年頃以降、わが国において、いわゆるヘア・ヌードと称される女性の陰毛が隠されないままで撮影された女性ヌード写真が、写真集や週刊誌に掲載されるようになったこと、(2)平成4年12月頃、東京都内の書店の洋書売り場に本件写真集と同一内容の輸入書籍が陳列・販売されており、原告は同書店で、右書籍を平成5年4月と7月と9月に各一冊ずつ購入したこと、(3)また、東京都内の他の書店の洋書売り場には、やはり露出した男性の性器を撮影した写真等が掲載されているメイプルソープの写真集「BLACK ・BOOK」と「MAPPLETHORPE」が陳列・販売されており、原告はこれらの写真集も購入したこと、(4)右「BLACK・BOOK」には、本件写真集の別表番号6、7、10ないし12の写真と同一の写真が、また、右「MAPPLETHORPE」には、同じく別表番号3、6ないし9、13の写真と同一の写真が、それぞれ掲載されていること、(5)また、本件写真集中、別表番号5、8、9、11の写真が、わが国において出版された書籍や写真雑誌等に掲載されていること(ただし、掲載された写真の大きさは本件写真集のそれと同一ではない。)が認められる。
       しかしながら、近時、巷間に流布しているいわゆるヘア・ヌード写真は、女性の性器それ自体や性戯そのものを露骨かつ具体的に撮影したものではないのみならず、このような写真による性表現が、現在、一般人の意識において健全な性的風俗に合致するものとして受容されているかどうかについても、多分に疑問の存するところである。ましてや、性器それ自体や性戯等の性行為そのものを露骨かつ具体的に描写した表現については、近時のわが国における前記状況を考慮に入れてもなお、一般人の意識において、健全な性的風俗に合致するものとして許容されるには至っていないというべきであり、前記認定のような本件写真集と同一内容のものが東京都内の書店で陳列・販売され、あるいは、本件で猥褻性があるとされる写真の一部が他の書籍等に掲載されて流布していることは、必ずしもそれらがその公然の陳列、頒布等を社会的に是認された猥褻でない表現物であることを意味するものと速断することはできない。ちなみに、甲第25号証(写真集「ロバート・メイプルソープ展」の抜粋)及び弁論の全趣旨によれば、同写真集に掲載された各写真は、平成4年に日本国内の公立美術館で開かれたメイプルソープの展覧会で展示された作品であることが認められるところ、これによれば、日本国内における展覧会では、本件写真集中の別表記載の各写真のうち、前記2で指摘した性器そのものや性戯等を撮影した写真は展示されず、別表番号9の写真と同内容の写真が展示されるにとどまったことが認められるのであって、現在のわが国においては、性器や性戯そのものを露骨かつ具体的に描写した表現物は、美術館においてもその展示が憚られているのではにかとの事情を窺い知ることができる。
       したがって、すでに説示したとおり、前記2で指摘した本件各写真が主として観る者の好色的興味に訴える効果、作用を有するものと認められる以上、原告が主張するように、近時のいわゆるヘア・ヌード写真が掲載された写真集等が販売されていることなどの事実をもって、本件各写真の猥褻性を否定することはできないというべきである。
    4.  原告は、本件写真集には芸術的価値があるから、猥褻なものとはいえないと主張するので、この点について検討するに、甲第14号証、第21号証、第24号証、証人飯沢耕太郎の証言によれば、メイプルソープは、昭和21年に生まれ、男性の裸体や性器などを被写体とした衝撃的な写真などで注目を浴び、昭和40年代後半から昭和63年に死去するまでの約20年間、人間の性や肉体などをテーマとする作品を発表し、写真を用いた現代美術の第一人者として美術評論家等から高い評価を得て活躍した写真家であり、日本国内において平成4年に同人の作品展が東京都庭園美術館その他の五つの公立美術館において開かれるなど、その名声は米国内にとどまられないことが認められ、また、本件写真集に掲載されている写真は、いずれも米国のホイットニー美術館で開催されたメイプルソープの回顧展に出展されたものであることは、前記(事案の概要2の1)のとおりである。
       しかしながら、芸術性と猥褻性とは別異の次元に属する概念であるから、その作品の持つ芸術性が作品の内容である性的描写による性的刺激を減少・緩和することによって、その猥褻性を否定することができない限り、その作品の芸術性や思想性等は、これを猥褻なものと判断することの何らの妨げにもならないというべきであり、本件においては、既に説示したとおり、前記2で指摘した本件写真集は、主として観る者の好色的興味に訴える効果、左右を有する猥褻なものと認められるのであって、メイプルソープに対する評価や本件写真集の芸術的価値を理由に、その猥褻性を否定することはできない。しがたって、この点に関する原告の前記主張は理由がない。
    5.  以上検討したとおり、本件写真集のうち前記2で指摘した本件各写真は、いずれも普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道徳概念に反する猥褻なものと評価せざるをえないののである。そして、本件写真集は、右の各写真を掲載した箇所を含め、一冊の書籍として一体を成しているものであるが、このように掲載された写真の一部が猥褻性を有するときは、たとえ他の部分が何ら猥褻性を有しないとしても、それらが一冊のものとして編綴されている以上、本件写真集全体を法21条1項3号にいう「風俗を害すべき」物品として同条3項の通知の対象とすることができ、当該猥褻部分を削除するかどうかは輸入申告者の自主的な判断に委ね、その後の通関手続きを行いとすることが許されるというべきである。
       そうすると、猥褻な写真を含む本件写真集を法21条1項3号所定の「風俗を害すべき」物品に当たるとして行われた本件通知処分は適法である。
  3.  以上の次第で、原告の請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
    	東京地方裁判所民事第三部
    		裁判長裁判官 佐藤 久夫
    		   裁判官 橋詰 均
    		   裁判官 武田 美和子
    
    


    [ HOME PAGE | BACK ]