教官九人が選んだ 新入生へ薦める本

アンケート
(1)新入生に薦める本、5冊まで。ジャンルは問いません。
(2)読書あるいは学問に関して思う事。
敬称略・五十音順

青山英康

医学部衛生学教室公衆衛生学

●『薬・その安全性』砂原茂一:岩波新書

 今日の薬害時代において学生生活を健康に生活するために。

●『成人病をふせぐ食生活』鈴木雅子:三陽書房

 今日の成人病時代に食生活を”考えさせる”本です。健康に学生生活を送るために…。

●『近代医学の壁』B・ディクソン:岩波現代選書

 医・歯・薬学部の学生諾君には必読の書として、他学部の学生諸君には、医学・医療への関心を持たれれば……。

●『働く人々の病気』B・ラマツィン:北大図書刊行会

 歴史的な本で、労働医学の古典と云われるもの。健康と生活との関連を考える上で…。

●『悪魔の飽食』森村誠一:光文社

 科学研究と人間性を考える上で現実的な話題となる。

○読書とは、著者との対話であり、著者と読者との間に交わされる人生と経験との交流である。それだけに、人間の一生の中で、最も感受性の強い現在を大切にして、幅広い範囲の書物を乱読する最も恵まれた機会である。
 大学を出て、自分の専門分野が決まると、なかなか専門外の書物に触れる機会が限定されてくるだけに、大学生時代の読書は非常に重要な意義を持っている。高校時代までの受験戦争の中で経験してきたように、ただ知識を記憶すればよいといったような態度は改めてもらいたいものである。得られた知識を体系化するために「考える」ことにこそ重点を置いてもらいたい。医学部の先輩として、私自身も専門領域の書物しか推薦し得ない存在になってしまったが、他の諸先輩の推薦書をも参考にして、是非実りのある大学生活を送るために、沢山の書物を楽しんで欲しい。

植松忠博

経済学部経済政策

●『メキシコからの手祇』黒沼ユリ子:岩波新書

 著者は世界的なバイオリニスト。メキシコ奥地で夫の仕事を手伝いながら、文明について自己反省する過程を描く。

●『飲えの構造』西川潤:ダイヤモンド社

 西欧文明が第三世界に与えた影の部分をえぐり出し、第三世界の貧しさの真の原因を究明している。

●『インドで暮らす』石田得昭:岩波新書

 日本語学校の教師としてインドに赴任して、インドの現実に圧倒されながら、インドの未来を考え、自己を考える。

●『現代の社会主義経済』佐藤経明:岩波新書

 著者は日本の第一級の社会主義経済学者。社会主義経済の構造と限界を冷静に分析している。

●『第三の波』アルビン・トフラー:日本放送出版協会

 「工業化の時代」(第二の波)のあとに、今、第三の波が到来しつつあるという。その波とは?、私達の生活は?

○私の記憶では教養部の時代にクラスの友人達と研究会をもち、毎週日曜日に『共産党宣言』から『ドイツイデオロギー』まで何冊もマルクスとエンゲルスのものを楽しく読みました。しかしこれは社会主義に対する期待が壊れていなかった古き良い時代の「思想的発育」の方法であって、西欧文明とその申し子である社会主義の限界がはっきりしてきた現在では別の読書方法があると思います。
 それは西欧文明の衰退を歴史的な流れの中に位置づけて、いま起こりつつある新しい時代における私達の生き方を摸索することです。新しい時代とは現在の第三世界の国々が世界全体を支配する時代という意味ですが、皆さんが30代半ばに迎える20世紀末にはこの時代が目前に見えているでしょう。ギリシャ,ローマ時代に代ってゲルマンの時代が来たように、これが歴史の必然です。
 しかし一方人間の生き方には古来たいした差はないのであって、釈尊も名も無き民も同し喜怒衰楽を味わって来たわけです。従ってある人の人生が激しく燃えるようなものであれば、私達がそこから学ぶものは多いと言えるでしょう。
 というわけで、第三世界との関わりを中心に現代とは如何なる時代か、人生如何に生きるべきか、という本を選んでみました。マスコミが言うように大学はレジャーランドであり、大学生はモラトリアム的存在ではありますが、いま読んだ本は皆さんの半生に必ず残リますので、悔いのない読書をして下さい。本を面白く読むということは、その本を通して世の中が、そして自分がより良くわかるようになることだと、ある先達が言っています。

中原清士

理学部生物学科植物生理学

●『貧乏物語』河上肇:岩波文庫

 現代と未来について考えさせられるでしょう。殊更におすすめするまでもない有名な著作です。

●『女工哀史』細井和喜蔵:岩波文庫

 とにかく自分で読んでみて下さい。余計なことは申しません。

●『All guiet in the Wetern Front (西部戦線異常無し)』E. M. Remarque:FWACETT CREST (N.Y.)

 今更申し上げるまでもない世界の名著。ここに挙げたのは英訳本(安価)です。作品中の主人公の立場に自分を置いてゆっくりと味読することをすすめます。古い戦争(第一次世界大戦)の話ではありますが、戦争と人間について考えるためには繰返して読むべきものです。この著者には他にも第二次大戦の物語まで含めて数篇の作品があります。

●『Return from the River Kwai』Joan & Clay Blair Jr.:BALLANTINE Books (N.Y.)

 クワイ河鉄橋建設に使役された豪・英捕虜の中、2218名が日本へ送られる途中、米軍潜水艦の攻撃に遭い、辛うじて生き残った人達及びその遺族等172人の話と米国、英国等の公式記録とを基にして書かれたもの。戦争を知らぬ人にとって是非一読に値するものです。

福間健二

教養部英語科現代イギリス詩

●『きみの鳥はうたえる』佐藤泰志:河出書房

 過酷さをしいられる青春の詩を新鮮なリズムでたたきつけている。

●『空虚としての主題』吉本隆明:福武書店

 わたしたちの現在が文学の上にもたらしている<歪み>を、圧倒的な迫力で切開している。

藤井寛

文学部仏文科19世紀フランス文学

●『夜の果ての旅』L-F・セリーヌ:中公文庫

 18歳が、ひととであうようにして出会える本は数すくない。これは、そのひとつ。

●『鳩どもの家』中上健次:集英社文庫

 病むことが、同時にエネルギーであるとはどういうことかおしえてくれる。

水田恭平

教養部独語科ドイツ文学

●『言語蕪という思想』吉本隆明:弓立社

●『言語にとって美とは何か』吉本隆明:角川書店

●『言語と社会』W・ベンヤミンー:晶文社

 (三冊まとめて)言葉という思想を一度はそのへブライズムに照らしてながめてみよう。何もかもをのみこむ沼であり、いつまでも何ものでもないアジア的なものを前にした焦立ちを組織するという困難な仕事が待ちかまえている

山口信夫

文学部哲学科西洋近代哲学

●『文化の理論のために−文化記号学への道』竹内芳郎:岩波書店

 宇宙船「地球号」の運命を感傷的に憂えるのではなく、知的に把握するために。

●『この百年の小説−人生と文学と−』中村真一郎:新潮杜

 近代小説史に八○年代の青春−自我を重ね合わすために。引用された小説を読むのでなければ無意味。

●『罪と罰』『白痴』『カラマーゾフの兄弟』『悪霊』ドストエフスキー:河出書房他

 小説がまた思想でありえること、読書が試練であることを知るために。

山下敬彦

理学部物理学科物理学

●『世界の公害地図』都留重人:岩波新書

 いささか穏健なれども

●『「緑の革命』福岡正信

 新しい農本主義を!太陽からエネルギーを採取するのは農林漁業に過ぎるものなし。

●『(論文集)原子力発電の危険性』編集部編:技術と人間社

 原発は原爆なり、真の省エネルギー杜会へ!

●高橋日光正氏の一連の著作

 高橋氏の医〈学〉に対する思い入れは、やはり大変なもので、それは割引いて読むこと!彼は結局、「人民の側」に立っただけで「人民」にはなれなかったけれども。

○学間に対する考えを400字や800字で書かせることは無駄です。どだい書くことはナンセンスです。行動を通してしか表現できません。学生諸君も活字や1OO分単位の講義で何かをわかろうと思わないことです。

好並隆司

文学部史学科

●『国家と文明』竹内芳郎:岩波書店

 マルクス主義全体を近代主義批判の立場からどう改造・発展させるかの野心作

●『生きる場の哲学』花崎泉平:岩波新書

 資本主義における人間疎外を如何に内面から克服するか。

●『不可触賎民への道』

 インドの解放の途を明示。身分性を内面からみつめる。

編集部が選んだ本

●『アメリカ合州国』本多勝一:朝日新聞社

 マスコミによって伝えられる「自由と民主主義で豊かな国」アメリカ合州国の「差別と暴力と貧困」をあばき出す。

●『プルトニウムの恐怖』高木仁三郎:岩波新書

 これからのエネルギー源としてもてはやされている原発がどれだけ危険で非実用的なものであるか。

●『非武装中立論』石橋政嗣:日本社会党

 ソ連の脅威から日本を守る自衛力の整備を、という最近の動きが何をもたらすのかを明らかにする。ただし著者が社会党副委員長であるという限界を忘れてはならないだろう。

●『いこうぜ元気印!学校地獄からの脱出』80年代別冊:野草社

 生徒を徹底的に管理し差別する事によって成り立つ現在の教育。これに異議申立てをして人間らしく生きようとする中・高校生の生の声だ。

●『ひとり暮らし料理の技桁』津村喬:風涛社

 これは単なる料理の本ではない。食べるという事が持つ社会的な意味を考え、インスタント食品や農薬による食の破壊を教えてくれる。同じ著者の『今日も一日おいしかつた』:現代書林 はより実際的である。