岡山大学新聞 再刊第2号(通刊237号) 1978年6月30日発行

 アメリカの経済学者で「新しい産業国家」や「ゆたかな社会」の著者として有名なジョン・K・ガルプレイスが出した「不確実性の時代」が大きな話題を呼んでいる。
 BBCテレビで連続的に放映され、好評を博したものを一冊の本にしたものだ。体制側の人間も、体制変革を目ざす側の人々も、確固とした理念を持ち得ない時代として現代をとらえ、確実なのは、核戦争が起こったら人類が滅亡するということだけだという彼の考え方は、認識の方法として鋭いものをもっている。
 労働運動も学生運動もかつてのような華々しさを失ない、方向性を明確にできないまま苦悩している。マルクスやレーニンの理論にたよるわけにいかず、かといって座していることは許されない。体制側もべトナム戦争を契機にアメリカの力は徐々に衰退している。労働運動や農民運動を切り崩し、教育の再編で学生運動を抑えつけようとしているが、慢性的な不況で自分の足元もぐらついている。
 大多数の人々が人生の指針を失ない何かを求めているからこそこの本は売れ、流行語にもなったのだろう。そしてそれぞれの立場でどう生きていくのかを決定しようとしているのではないだろうか。しかしガルプレイスは私たちに「現実の事態を直視し、恐れることなく問題にぶつかっていき、必要な対策が明瞭である時には決断をもって行動すること問題が困難にみえるからといって逃げないことだ。」というごくあたり前のことを最後に言っている。問題の解決は、やはり一人一人が考え少しづつ前へ進むことしかないということだろう。さて貴方はどうするか。


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