06/12 文科省のプログラミング教育に関する調査研究報告書が酷い

文部科学省が平成26年度に行った「諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究(文部科学省平成26年度・情報教育指導力向上支援事業)」報告書が6月10日に公開されたのだが、その「はじめに」が日本語としても、歴史的前後関係にしてもむちゃくちゃだということで、話題になっている。批判が殺到したのだろうか、12日には「内容について確認しております。確認後、改めて掲載する予定です」と、引っ込めてしまった。

dnp1
PDFファイルで公開されていたので、昨日のうちにダウンロードしており、手元でその内容を確認することができる。

1942年にACMは存在しない

まず、

1942年、今日の電子計算機の原型の一つが、ペンシルバニア大学ムーアースクールのJ.P.エッカート、J.W.モークリーによって論文としてACM(Association for Computing Machinery)に発表され、1945年には弾道計算用の実機ENIAC(Electronic Numerical Integerator and Computer)が開発された。

相前後して現在のコンピュータの基本構造であるプログラム格納方式構造が開発され、EDSAC(Electronic Delay Storage Automatice Calculator)などが実用化された。

しかし、科学者は、コンピュータプログラミングが非常に難解である事に気づいており、1949年ごろにはケンブリッジ大学で「コンピュータ教科書」が初めて出版された様である。

と、戦前戦後のコンピュータ黎明期から説き起こしている。だが、ACMの設立は1947年のことで、1942年にエッカートとモークリーの論文を発表しようがない。こんな、コンピュータ史の初っぱなから、前後関係を間違えているのでは、信頼性がゼロだろう。

dn2

ノートPCでダウンサイジングした基幹系システムは初耳だ

2ページ目もぶっ飛んだ記述が続く。

1980年代のメインフレーム時代からミニコン、ラップトップPCが出現し、ダウンサイジングの嵐にさらされ、CPUの高速化、メモリー及び外部記憶装置の高密度化が急速に進み、パーソナルコンピュータの低価格が進んだ。一方、ソフトウェアの開発環境も急速に変化していった。

パソコンを飛ばして、いきなりラップトップPCが出現したという。ワークステーションやデスクトップPCはどうしたのだろう。それにラップトップPCがメインフレームに取って代わったという話はいた事がない。とんでもないダウンサイジングである。

パソコンのDOS(Disc Operation System)が開発されてまもなく、GUI(Graphical User Interface)の実用化と共にマウスシステムが出現した。

DOSの「O」はOperationではなくOperatingだと思うが、パソコン用DOSとなるとCP/MかMS-DOSのことだろう。CP/Mは1976年に発売され、MS-DOSは1981年、IBM/PCの発売と併せてリリースされた。この文書ではGUIの実用化が何を指すのかはっきりしないが、ビットマップディスプレイ、マウス、ウィンドウを持つGUIシステムとしては1970年ごろから開発が始まったXerox AltとSmalltalk環境がその先駆けと言える。つまり、ここでも前後関係の逆転が起きているのだ。

そもそも報告書に載っている最初のマウスというのが1968年のダグラス・エンゲルバートによるものであって、DOSとは時代が離れすぎている。というか、何の説明も無くエンゲルバートマウスが出てくるのか。

GUIとインタープリタ言語は関係ない

これにより、インタープリター言語(逐次実行方式)の普及改良が進み、コンピュータプログラムの命令ごとの実行デバッグ方式が可能となり、ソースコードの生成を省く事でプログラム開発の効率化が進んだ。

GUIによってインタープリター言語の普及改良が進んだというのも初耳だ。僕ら世代にとって一番なじみ深いインタープリター言語といえばN88 BASICであり、今一番使っているのがPerl、PHP、JavaScriptだろう。BasicもPerlもPHPもJavaScriptも開発環境はCUIが中心だ。どこでGUIが関係しているのだろう。「実行デバッグ方式」というのも初耳。ステップ実行によるデバッグならコンパイラー言語の話だ。それにインタープリターはソースコードをその場でマシン語に変換して(実際には中間バイトコードが主流)実行するので、ソースコード生成は省けない。

テキストや音の専用処理プロセッサーとは

又、近年コンテンツの基本要素である「テキスト」「音」「画像」の専用処理プロセッサーも用途毎に高速化、高性能化が進み、パーソナル化と電話機能の多機能化により低価格化が加速し、2007年iOSの開発でiPhoneが出現し、2009年にはAndroidが実用化された。

ここも日本語として意味が通っていない。「テキスト」「音」「画像」の専用処理プロセッサー? 確かにグラフィック処理様のプロセッサーGPUは高速化が進んでいるけれど、テキストや音の専用処理プロセッサーなど聞いた事がない。今、世界中で使われているCPUのほとんどがIntelのx86アーキテクチャ(Atom、Celeron、Pentium、Core、Xeon、AMD)かARMアーキテクチャ(Coretex、Snapdragon、Apple Aなど)だ。いずれもCPUとしては汎用であり、テキストでも音でも画像でも処理できる。

最後に

ここで、次世代を担う初等教育、中等教育(中学校、高等学校)課程でのICTの基本教育、コンピュータープログラミングの習得は、将来の日本の産業競争力の源泉となることが確実視される為、行政施策に資するべく、諸外国の義務教育を中心に、コンピュータプログラミング教育の実態を調査する。

と締めくくっている。報告書本文は、英国とエストニアの現地調査を中心に23の国と地域のプログラミング教育の実態をまとめており、それなりに価値はある。だが、その調査や報告書の意図、想いを最初に読者に語るべき「はじめに」にこんな無茶苦茶な文書を載せたのでは、読む気が失せてしまうだろう。でたらめなコンピュータ歴史など有害無益。この調査および報告書作成には税金1890万円が支出されたという。もったいない話である。

ちょうど情報経済論の講義でコンピュータの歴史をやっているところだったので、文科省報告書のレベルに驚いた。ぼくの学生がこんなレポートをもってきたら、突き返すか「不可」だ。報告書を作成した大日本印刷、大丈夫か?

dnp

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください