【書評】『第五の権力—Googleには見えている未来』脳天気なIT礼賛

第五の権力
第五の権力—Googleには見えている未来
著者:エリック・シュミット、ジャレッド・コーエン
翻訳:櫻井 祐子
出版社:ダイヤモンド社
発行日:2014年2月21日

Google会長エリック・シュミット初の著書、ということで話題になっている。正確にはエリック・シュミットと、GoogleのシンクタンクであるGoogle Ideas創設者ジャレッド・コーエンの共著。

Google会長が書いているからといって、SEOも検索もAndroidも出てこない。ITもビジネスの話もほとんどない。ほとんど政治と軍事の話ばかりだ。

そもそも共著といいながら、どの章を誰が書いたのか分からない。普通ならば担当した章を明示するはずだ。「グーグル会長であるシュミットは」とか「私たち」はという書き方があちこちで出てくるので、シュミットはごく一部だけを書いて、ほとんどはコーエンによるのではないだろうか。
さらに「著者の1人であるコーエンは」とか「当時アメリカ国務省にいたコーエンは」という記述を見ると、コーエンすら実際には執筆しておらず、Google Ideasのスタッフがゴーストライターを務めているのではないか、と疑ってしまう。

コネクティビティは明るい未来をもたらすのか

本書の基調は、コネクティビティ礼賛と反テロということに尽きる。現在は全世界の人口のうち20億人しかインターネットにつながっていないけれど、近い将来には残りの50億人がつながるようになるという。

仮想世界にもうあと50億人が合流し、コネクティビティ(ネットワークへの接続性)が急拡大すれば、仕事の能率が上がり、健康、教育、生活の質が向上するなど、現実世界もよい方向に変わっていく。しかも、権力層の人たちから、経済ピラミッドの底辺にいる人たちまでもの誰もが、こうした恩恵に与る。

(P17)

本当だろうか。たとえば日本では2011年度におけるインターネット利用者数は9,610万人で人口普及率は79.1%となっている(総務省「情報通信白書」より)。人口普及率が50%に達しなかった2001年より、あるいはインターネット商用プロバイダがまだなかった1991年ごろに比べて仕事の能率、健康、教育、生活の質は向上しただろうか。

もちろん、今更インターネットがない時代に戻るのはほとんど不可能だ。ビジネスのやりとりを郵便だけでやるとか、電話帳を開いて友人の電話番号を調べるなどというのは、やってられない。音楽CDを買うことも少なくなった。だけど、生活の質は10年前、20年前とさほど変わっていない。可処分所得が上がったり、勤務時間が短くなったり、生活習慣病が減ったり、待機児童が減ったりしたか? してない。

テロリストと活動家

この楽天的な見方は、政治分野ではもっとはっきりする。単純に言えば反米的国家の反体制運動はITで活発化するが、反米的国家や反米的組織、彼らが言うところの「テロリスト」は追い詰められるというのだ。

テロリストも必ず現実世界と接点を持ち、通信機器を使う以上、その活動は追跡され、把握されるという。

オンラインでは監視の目が増え、より多くのやりとりが記録され、老練なテロリストの慎重さをもってしても、完全に隠れることはできなくなる。オンラインにいる限り、見つかる可能性がある。そしてテロリストが見つかる可能性がある限り、支援者のネットワーク全体も見つかる可能性があるのだ。

(P284)

一方で

拘留や嫌がらせ、拷問、違法な処刑がなくなることはないが、全体として見れば、インターネットの匿名性と情報通信技術がもたらすネットワークの力によって、活動家や運動に参加する市民は保護されながら運動を推進できるのだ。

(P193)

たとえば、端末にまったく記録を残さずに、情報(テキスト、画像、映像)を発信できる暗号化アプリを搭載した携帯電話などの特殊な機器を誰かが開発して、抗議運動が起こっている国に密輸する。誰かに拾われて(ママ)としても、記録が残っていないため、悪用されることも、もち主が特定されることもない。

(P201)

と、ずいぶん楽観的だ。仮想世界に身を隠せるのも、アクセス履歴を追跡されるのは革命家もテロリストも一緒ではないか。あるいは米国が総力をあげて追跡するテロリストには身を隠す場所などないという脅しなのだろうか。

ジャレッド・コーエンは1981年生まれの、現在33歳。24歳で米国国務省の政策企画部スタッフに採用され、ライスやクリントンの政策アドバイザーを務めたという、米国権力中枢に居た人物。だから、米国国家の世界観というのが色濃く反映されているのだろう。

本書では中国についてはけっこうなスペースを割いているけれど、日本や韓国についてはほとんど触れていない。やはり彼らの関心の中心はアフガニスタンやリビア、イラン、ソマリアなのだろう。

災害復旧の章にしても、2010年ハイチ地震について述べており、東日本大震災は触れていない。実際、地震でも大雪でも現地を復興させたのは自衛隊や行政、ボランティアによる人力であり、ITは補助的な役割しか果たしていないことは明白だ。

まぁ、日本は秘密の存在自体が秘密とされてしまう秘密保護法があっという間に成立してしまう国なのだから、評価が難しいのかもしれない。

もちろん、NSAによる国内外の通信盗聴については完全に無視されている。

ロボット兵士は丸腰の6歳児を撃つ

恐ろしいのは、将来のロボット戦争についての次の一節だ。

たとえば武装した地上ロボットと、反乱集団によって送り込まれたとおぼしき、スプレー缶をもった6歳児がにらみ合っているとしよう。
ロボットは自律的に、または人間の指示で、丸腰の子どもを撃つだろう。撃たなければ自分が無力化される。なぜなら、もし6歳児がスプレー絵の具を高性能カメラとセンサー部品に噴射すれば、視界が失われるのだから。

(P336)

シュミットなのかコーエンなのか分からないけど、Google幹部はこの場面で6歳児を撃つべきだと主張しているのだ。高性能武装ロボット兵士は、素手で6歳児を押さえ込める警官より脆弱であり、凶悪な存在だということだろう。

訳者あとがきによれば、

Wikileaks代表のジュリアン・アサンジは、NYタイムス誌に寄せた書評で、本書を「テクノロジー至上主義的な帝国主義への青写真と批判し、こう結んでいる。
「この本は、未来のために戦う者たちの必読書である。--・汝の敵を知れ・という意味において」

(P405)

とのこと。どこまで青写真としての精密さ、現実性があるのか怪しい。必読書というほどでもないような気がするのだが。

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