【書評】『呼鈴の科学 電子工作から物理理論へ』吉田武

呼び鈴の科学

書名:呼鈴の科学 電子工作から物理理論へ
著者:吉田武
出版社: 講談社 講談社現代新書
発売日: 2014/1/17
定価:900円(税別)

打ち合わせ帰りに立ち寄った書店で、何気なく購入。いろいろ実験見せながら電磁気学、相対論、量子力学、それにArduinoを使った電子回路の作り方まで紹介するというので、すごく引かれた。

最初は著者が誰だか気にしてなかったのだけど、なんか見覚えがあると思って検索したら『虚数の情緒・中学生からの全方位独学法』、『新装判オイラーの贈り物・人類の至宝e^{in}=-1を学ぶ』『素数夜曲・女王陛下のLISP』といった分厚い怪著を何冊も出しているあの吉田先生ではないか。ちなみに『虚数の情緒』は1001ページ4500円、『素数夜曲』は871ページ3780円。通勤電車の中でつり革につかまって本を読むのが読書タイムである私にとって、こんな分厚い本は絶対無理。『呼鈴の科学』は新書判だからこそ手に取れたというわけ。

『呼鈴の科学』というタイトルは、著者も言っているようにファラデーの『ロウソクの科学』から取っており、講演を行っているかのようにさまざまなエピソード、テーマを交えている。ファラデーはロウソクの炎から始まって1861年の化学を子ども達に解説している。吉田武は電磁石とスイッチとベルからなる呼鈴を切り口として電磁石、方位磁石、磁場、電気回路、ピタゴラスの定理、物と重さ、放物運動、自由落下、スポイトロケット、相対論、トランジスタ回路、プレップボード、Arduino・・・ 

縦横無尽に飛び回り、「科学する心」を解いている。数式はほとんど登場しない。そもそも縦書きだ。

数式を用いず、法則に頼らず、手を動かして、物理を見抜く。

という斬新な試みは面白いが、とにかく話が飛びすぎていて、いったい何のことについて語っているのか分からなくなってしまう。電磁気学を理解したい人も、相対論を理解したい人も、電子回路やArdinoに興味を持っている人も、いずれも中途半端になってしまうのではないだろうか。

また残念なのは、著者が斬新な発想で作り上げたユニークな実験装置がいくつも紹介されているのだけど、小さな写真が1点だけでは構造や動きが理解できない。

たとえば電磁石からの距離と磁場の強さを探る実験装置「オープン・セサミ」とか、スポイトを発射してその飛距離を測定する「スポイト・ロケット」、スピーカーを使って定在波の存在をビジュアライズする「クラニド・グラス」とか、どういうものなのかさっぱり分からない。

写真を大きくし、イラストを付けて解説するといった工夫が必要だったのではないだろうか。

本書で唯一、僕的にインパクトがあったのは「導体中の自由電子の移動速度は?」という問。

光速に等しいなどと、すっかりぼけていた。正解は秒速0.1mm程度。確かに陽子の1836分の1しかないとは言え、質量を持つ電子が光速で移動したらとんでもないことになる。光速で伝わるのは電場の変化であり、自由電子そのものはのんびりしているのだ。

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