『大栗先生の超弦理論入門』

超弦理論入門

大栗先生の超弦理論入門
著者:大栗博司
出版社:講談社
ISBN-13: 978-4062578271
定価:本体980円

量子重力論、超弦理論の研究者として、そして現代物理学の啓蒙家として名高い大栗博司氏の昨年8月の著書。大栗氏はカリフォルニア工科大学カブリ冠教授、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員。カブリって何かと調べたら、ノルウェー出身の実業家故フレッド・カブリ氏が設立したカブリ財団のことで、基礎科学分野への支援活動を積極的に行っているという。

で、本書はブルーバックスのシリーズなので、ほとんど数式を使わずに最先端物理学の世界を分かりやすく解説している。物理学の世界では数学が共通言語であり、数学を使わずに理論を説明するのはきわめて難しい。数式を使わなかったためにかえって意味が分からなくなり、破綻している解説書も少なくない。しかし、大栗氏は超弦理論を300ページに満たない新書サイズで一通り説明してくれている。

簡単に言えば、素粒子を大きさを持たない「点」として扱うとエネルギーが無限大に発散してしまうので、弦の振動として扱うのが超弦理論。その振動の方向はX軸、Y軸、Z軸・・・のように考えると9つの方向を持っているとつじつまが合う。つまり超弦は9次元世界の存在だと言うこと。

しかし現実世界は3次元なので、6次元分をコンパクト化しなければならず、それをレーザーホログラフィックのアナロジーでホログラフィック物理と呼ぶ。といったところだろうか。超弦理論の9次元も弦理論の25次元も方程式を解くために必要な次元を重ねていったら出てきた理論上の世界であり、9次元宇宙人が存在するというわけではない。

本書で「やられた」と感じたのは『岩波講座現代物理学の基礎 10 素粒子論』に触れている箇所。監修者である湯川秀樹氏が李白の”天地は万物の逆旅にして、光陰は百代の過客なり”から

逆旅とは宿屋のことである。万物はそれぞれ宿屋のどれかの部屋に泊まる旅人である。どこかから来て、そこに泊まり、やがてどこかへ去る。しかし天地全体が宿屋なら、その外へ出てしまうことはなかろう。同じ部屋に居続けるのか他の部屋へ移るかの、どちらかである。あるいは時あってか旅人は死ぬことによって、この天地から消えてしまうこともあろう。そこで、もしも天地という代わりに3次元の空間全体、万物という代わりに素粒子という言葉を使ったとすると、空間は分割不可能な最小領域から成り、そのどれかを占めるのが素粒子ということになる。この最小領域を素領域と名づけることにしよう。(643ページ)

と書いているのだが、大栗氏は

私は大学生時代にそれを読んで、「何だ、これは」と仰天しました。しかし、いま考えればこの「素領域」という発想は、重力と量子力学を統合したときに現れる階層構造の行き止まり、プランクの長さのことを予見していたのかもしれません。

と。大栗氏とぼくは5歳違いだから、たぶん現代物理学の基礎第2版だろう。ぼくも大学生時代に全11巻を揃え、今でも茶色く変色した箱が書棚に並んでいる。だが、恐らく素粒子論は643ページまで読んでいないし、読んだとしても仰天するどころか素通りしてしまっただろう。

久しぶりに物理学をやり直してみようかという気にさせてくれた。

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