1977年春 岡山 ワンダーランド

30年前、岡山に「ワンダーランド」という空間があった。
大学1回生の後期試験も終わり、春休みに入って閑散としてきた寮の部屋で、ぼくはぼんやりと毎日を過ごしていた。新学年を控え、部屋の移動を済まさなければ帰省もできないのだが、引っ越し先の部屋が空いてないので身動きができない。
秋から同じバンドの子とつきあっていたのも分かれてしまい、それが原因でバンドも解散。目標が見えない時期だった。

そんなある日、岡山の街に出て柳川交差点の近くにあった「LPコーナー」というレコード屋で1冊の雑誌を手に取った。「OUR SPACE FOR NEW LIFE STYLE」「岡山の高校生がつくりだす空間」とサブタイトルが付いたその雑誌は『WONDER LAND』。B6サイズで80ページほど。全ページが手書きだけどちゃんとオフセット印刷されて99円プラス1円。
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高校時代に新聞部だったり、吉祥寺のフリーペーパー『名前のない新聞』にかかわっていたぼくは、このミニコミに思わず引き込まれてしまった。名前のない新聞や、当時の手作りミニコミの雰囲気が溢れていたのだ。記事は音楽のこと、岡山の街の情報、高校生たちの声・・・ 
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奥付を見れば発行所は大学のすぐ近く。さっそく発行人に連絡を取り、彼らが「夢荘アパート」と呼んでいた学生下宿を訪れた。それが発行人、Kとの出会いの瞬間だった。
Kは高校を数ヶ月で退学してしまい、大検を一発合格。高校生でもないのに岡山県高校生集会の議長を勤め、ワンダーランドを創刊した。その人脈は、2000部を県内の高校生だけに手売でさばくほどのものだった。
まもなく、Kは柳川に近い野田屋町のアパートに引っ越した。3畳+4畳の下宿は「夢幻舎」と名付けられ、そのままワンダーランド出版局となり、3号の編集に突入していった。
パソコンもワープロもない時代、活字は写植で打つしかないが、高くてそんなものは使えない。版下用紙にロットリングペンで文字を書き、スクリーントーンを張って飾りを付けた。
3号では岡山シティガイドを特集。今なお健在の「ペパーランド」、かつて岡山一のJAZZ喫茶だった「シャイン」、オープンしたばかりのJAZZ 喫茶「OM」、プログレをかけていた「コスモグラフィア」、岡山のライブハウス第一号だった「コマンド」・・・ 記事についてマスターからクレームが入り、みんなで謝罪に行ったこともあったっけ。
ペパーランドの能勢さんがアングラフィルムについて記事を寄せていたり、中川イサトのインタビュー、劇団銀仮面団の告知、岡大に10数年在学したという伝説を持つ伊澤さんのエッセイと、記事の幅も広がっていった。
だが、中心メンバーは高校3年生となり、大学生が入ってきたことで、だんだんと創刊時のまとまりが薄れてしまった。ぼくもちょっと焦っていたのだろう。政治的なことを押し付けたり、みんなには迷惑をかけてしまったと反省している。
そして編集スタッフとして手伝ってくれていた清心女子高のFと付き合い始めた。Fとは1年半ほど付き合って手痛い別れを体験したのだが、親に紹介したり、ちょっとは将来のことなど考えた初めての相手だった。
結局、ワンダーランドは6月に出た4号で終刊した。この号は表紙をシンガーソングライターでイラストレーターでもあるシバ(三橋誠)に書いてもらった。内容的にはバラバラで、まさに末期。自分の文章は恥ずかしいもので、ちょっと読み返す勇気がない (^^;
夏休みの黒島(牛窓沖の無人島、「黒島」を県が青少年向けに貸していた)合宿がワンダーランドとしての最後の活動だったと言えるかな。Kは夢幻舎を引き払って実家に戻り、受験勉強に専念することとなった。他のメンバーも受験や就職、それぞれの道を歩み出して解散した。ぼくは半年後、岡大新聞会を再建した。
わずか半年足らずのワンダーランドだったけれど、ここでの出会いはぼくの人生を大きく変えてしまった。彼らと会わなければ、岡山という街、岡山の人たちと深く関わることもなく、多くの寮生のように、外から来た「学生さん」として岡山の街を通り過ぎていっただろう。
Kとは、その後も付き合いが続き、大学院卒業後に東京で合流してクラブハウスという会社を作り、2年間を共にした。これがぼくの社会人としての出発点であり、30年前に『ワンダーランド』を手にしなければ、今の人生もエルデもなかったはずだ。
当時のメンバー、キタロウ、ナオ、ミゾテ、シュン、オサム、ヨーコちゃん、イクちゃん、そしてF・・・みんなどうしているのかな。

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